桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その参

③弘徽殿の女御

 

わたくしは弘徽殿女御。現代日本において最も権力を握る人物と言われている右大臣の娘。わたくしは幼いころから中宮になるべくして育てられ、そしてその通り、帝の后として誰よりも早く後宮に参りました。

後宮に入ることを「入内(じゅだい)」と言うのだけれど、わたくしは中宮になることを周囲に望まれて入内したのです。もちろん、わたくしもそうなってしかるべきだと思っていますのよ。この国一番のセレブである実家の勢力をバックに、わたくしは押しも押されもせぬ一の后。帝もわたくしを重く扱って下さるし、もうすでに長男も出産していてよ。彼はそのうち皇太子になると目されているけれど、わたくしも中宮宣下を受けることは時間の問題だと、宮廷中の誰もが思っていることでしょうね。さあ、今夜あたり、帝からお呼びがあるような気がしていてよ。楽しみですこと。

「女御様」

「何」

「桐壷更衣だそうでございます」

「誰」

「桐壷更衣でございます」

「だから誰なの」

「按察使大納言の娘だとかで…」

「そんな人は知らないわね。で、わたくしに帝からのお召はあるのかしら」

「ですからそれが桐壷更衣だそうでございます」

「誰」

「ですから桐壷更衣…」

「もうよろしくてよ。なぜそのような話をわざわざわたくしに聞かせるのかしら?お下がりなさい」

 

誰…?桐壷更衣?更衣?更衣?!

帝が、わたくしではなく更衣ふぜいをお呼びになるとは一体…?

ああ、そうだわ。人はいつもグルメな物ばかり食べていると、たまにはジャンクなものが食べたくなると言いますもの。きっと帝も、更衣とかいう珍しいものに、気まぐれに好奇心を持たれたのだわ。わたくしともあろうものが、そのような者に一瞬でも心を乱されるなんて。わたくしは弘徽殿女御、一の后。誰ひとりとして、わたくしを脅かすことなどできはしなくてよ。