sisinnden2

桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その四

④噂話

 

「いやぁ、しかしなあ~、桐壷更衣はんとは、帝もまあなんとも思い切ったことを」

「ホンマですなあ。最初はまあ、弘徽殿女御様とはちがうタイプやし、男やったらまあそういうこともありますやろなと思うとりましたけど、ちょっと最近は度を越した肩入れぶりですわなあ」

「それですがな~。あれ、ほんまにかないませんわなあ。帝、仕事しはらへんし困ってますんや。このごろは大きな行事の時でも桐壷更衣はんをそばに置いていちゃつかはりますやろ。こっちも見たらあかん思いますんやけど、見とうなくても見えてまいますがな~。ほんま目のやり場に困るっちゅうのはあの事ですな。宮廷がキャバクラみたいになってしもうてほんまに」

「キャバクラの方がまだましですがな。キャバクラやったら私らも女の子呼んであんじょうやったらよろしいけど、ここはもう、ただただ、見せられてるだけですやんか」

「桐壷更衣はんがお好みですかいな」

「そないな話とちゃいますがな。かなんなぁもう。それよりもう、こない帝が仕事してくれはらへんかったら、この国もやばいんとちゃうかって、もう心配で心配で」

「せやなあ。お隣の唐の国では楊貴妃っちゅう世界三大美女や言われてるお人に皇帝が入れあげて、とうとう国が滅びたゆう話ですな」

「それですがな。その轍を我が国が踏んだらどないします?世界三大美女てこのあと千年先まで言い伝えられるほどのお人やさかい、よっぽどきれいなんやろ、いっぺんおがんでみたいわあ、とか思うけど、そんなのんきなこと、よその国の事やから思う事や。我らが帝に、そないなお人がついて、国が亡びることなどあってはならん。あの桐壷更衣いうのんがもっとこう、帝を諌めてくれなあかんねん。昼間っからいちゃついてる場合と違いますねん」

「せやせや。あの桐壷更衣いうのがあきませんな。ほんま、かわいらしい顔して危ない。しかもあんさんもある意味、あのお人の被害者ですしなあ」

「被害者て、わしは別になんも被害やなんて受けてまへんけど」

「いやいや、お察ししますわ。せっかく姫さん入内させはりましたのになあ。あそこまでにしはるの大変やったんちゃいますか。せやのにさく~っと桐壷更衣がいいとこ取りしてしもて。うちとこの姫はまだ小ぃそうて入内には早かったからあれやけど、ホンマ、手間も暇も金もかけてこの結果。どんなにか悔しいやろと思たら、同じ親としてホンマ、お察ししますわ」

「ああ~っ、それ、言わんといて欲しいなあ~!もう考えんようにしてんねんから」

「で、なんぼ程かかりましたん?先々のために教えてもらえませんやろか?準備は全部こっちもちなんですやろ?」

「当たり前ですがな!全部こっち持ちでしたわ。やっぱり、見劣りしたらあかん思うから全力尽くしましたがな」

「ほんでなんぼ程」

「なんぼて…。さあ~もう今となってはよう分かりまへんけどなあ。21世紀の京都やったら、一年のうちに春は娘を葵祭の斎王代にして、夏は息子を祇園祭のお稚児さんにして、ついでにお供の禿(かむろ)二人分も一緒に面倒見て、ちゅうのんとさあ、どっちやろなあ~?よう知らんけどな」

「大概ですやんか。そんだけやったのになあ…。そら、腹も立ちますわなあ。せやけどあんだけ帝が更衣更衣いうてはったら、もう他の姫さんたちはなあ…」

「もう言わんといてぇな。わし泣くで。せや、もうわしの出世の芽ぇもなくなったようなもんや。ほんまあの更衣のせいでなあ。父親の按察使大納言はんも、さぞかし草葉の陰で喜んではることですやろ」

「按察使大納言はんなあ…ええお人やったけど、最後の最後でどえらい野望持ち出さはったなあ。桐壷更衣はんの入内て、遺言やったらしいですな」

「遺言!はぁ~!遺言て、そんなもん、自分出世できませんやん。なんで奥さん収入なくなるのにそんなんしはってんやろなあ」

「古風なお人らしいわ。良妻賢母っちゅうやつでしょうな」

「あほらし。何歳やったんかしらんけど、入内できるような娘がおって按察使大納言クラスのポストやったら、もうそこで頭打ちですやんか。そんな中途半端な身分のくせに、なに欲だしてますねやろ。なあ?そんな身分で、しかも自分がもうすぐ死のか、っちゅう状況やったら、万一、事が上手いこと運んでも、娘には何の後ろ盾もないやないか。立場弱いやんか。あほかっちゅうねん」

「いやぁ、娘が皇子産んで、そのお子が将来帝にでもなったら、外戚として家が栄えるとでも思うたんとちがいますか」

「あほか。そんな後ろ盾もないもんが、帝どころか皇太子にさえなれる訳ないやろ。それくらい、ちょっと考えたら分かることや!」

「ま、まあまあ、そない熱うならんと」

「いいや。そやから見てみい、実際、あの子あんな肩身の狭い思いしてるやないか。帝の寵愛を受ければ受けるほど立場が悪なるっちゅうねん」

「ほんまいうたら、あのクラスいうても、後宮に入れる身分ではありますわな。全国的に見たら立派な身分のある公家の姫さんですわなあ。それがもう、あんなして四六時中帝といちゃついてるせいで、なんや下品な者やと見られてますわな」

「せやろ?さっきもわしら『キャバクラ』言うたけど、要は桐壷更衣がキャバ嬢みたいや思たからそう言うたんやで?親としてそんな、宮廷全部敵にまわして娘が蔑まれること願うやつあるか?普通そんな奴おらんやろ。チッチキチーやで」

「そのネタ、さすがにちょっと早すぎですやろ」

「時代が追い付いて来られてへん?わしゴッホみたいな天才やな」

「何言うてはりますねんな。誰ですのんゴッホて。せやけどまあ確かに、娘が一人しかおらんのやったら、家に置いて、そこそこの男を通わしとったらええのになあ。それが筋っちゅうもんですやろに。このままやったら按察使大納言の家、断絶ですわなあ」

「せやろ。遺言するにも方向性違ってんねん。うちかて、あの更衣さえおらなんだら、もうちょっと日の目見るチャンスがあったはずや思うわ!あんだけ手ぇも暇も金もかけて、按察使大納言のしょーもない遺言に邪魔されたんかおもたら、なんや急に憎らしゅうなってきたわ!」

「まあまあ、親心やら国の心配やら、なんや複雑なお怒りになってきましたな。楊貴妃やら国が亡びるかもとかよりも、どっちか言うたら桐壷更衣はんへの妬みですなあ。お気持ち、ようわかります」

「はい?妬むてそんなもん、なんでわしがあんな小娘相手に!!」

「おお怖い怖い。せやけどその気持ち、お察しいたしますわ。ほんで実際、親指の腹に『チ』て書いてはりますのんか?」