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桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その十

⑩噂話

 

「ちょっとあの話聞いたっ?!」

「え、今晩の嫌がらせの作戦は何か、って話?今日は確か…」

「ちがうわよっ!部屋換えの話よ!!」

「部屋ぁ~?誰と誰の?」

「桐壷更衣よっ!!」

「うそっ!!え、でも少なくとも私と交換ではないわよ?まさか、あなたと?!」

「違うわよっ!後涼殿更衣さんとよ!!」

「えっ…!こ、こ~りょ~でんのっ?!」

「え、でしょ?!そうでしょ!そうなんだけどそうでしょ?!」

「イヤイヤいやいや…!ちょ、待てよぉ~」
「もう、ホントにねえ~」

「帝、さすが帝…合理的すぎる…」

「男性脳、ってやつ?桐壷だと清涼殿まで遠いし、その道筋で嫌がらせに遭うんだったら、自分の部屋の隣に住めば?っていう話よね。うん、そうね、確かにその考えは正しいと思うわ。その理屈だと、逆に部屋替えするなら後涼殿しかないわよね」

「確かに、理屈ではそうよ。そうなのよね~。だけど、こっちサイドの理屈で言うと」

「そこだけは~」

「よね~。分かるけど、分かるけど、なぜよりにもよって後涼殿のセンパイかなあ~」

「後涼殿更衣さん、怖すぎるもん。桐壷更衣を忌み嫌ってる代表格じゃない。でもさ、あの場所に部屋があったらそうなるのも仕方なくない?毎日毎日、隣なんだもん。自分が一番近くにいるのに、一番遠い部屋からやってくる女が帝の相手なんだもん。それが、嫌でも目に入っちゃうんだもん。そりゃあ、腹立つわよ。おなじ更衣でさ」

「ある意味、一番の被害者かもしれないわよねえ」

「そうそう。だからさ、あれだけ怖いのも分かるんだけどさ。後涼殿に住んでたからあの性格にもなったし、今回の部屋替えにもなったんだろうし」

「桐壷更衣がますます憎くなるわよね」

「なるなる。絶対なる。それで、これまでみたいな嫌がらせができなくなるっていうならさ、もっといじめは陰湿になるわよ、きっと」

「陰湿って、たとえば?」

「いやもうそりゃあ、呪い、呪詛、祈祷とかその類よ多分」

「こ、こわっ!!マジじゃないの!」

「だからいつだってマジだってばさ。私達だって一応、なんなら帝の妻になろうかっていう位の貴族の姫なんだからさ、坊主だの陰陽師だのを雇ってあの更衣を呪うくらいのコネもカネもある訳よ。私はやんないけど。でもあのセンパイはやりかねないわね。もう他に手がないもん」

「それって、はっきり言えば呪い殺すって話でしょ?もう嫌がらせのレベルじゃないじゃない」

「そうよ、そういう話よ。桐壷更衣がいなくなればこの異常事態は収まるんだもの」

「う、ううん、まあ確かに…一殺必生…仕事人的な発想ね…」

「いやあ~、帝、アンタッチャブルに触っちゃったのよ。くわばらくわばら」

「分かってたけど、分かりすぎてたけど、帝ってもうさ、桐壷更衣と自分さえよければそれでいいのよね。なんかさ、生まれた時代と立場が違ってたら、ものすごい幸せな二人よね」

「確かに。でもさ、ほんとに桐壷更衣はこれでいいのかなと思ったりするなあ」

「どういう事?」

「いやさぁ、確かに帝にあれだけ思われて羨ましいなとは思うんだけど、その代償が大きすぎない?あんな風に呪いの対象にまでなっちゃっても、あの更衣は幸せなんだろうか?帝が桐壷更衣を好きなのはわかるけど、桐壷更衣はホントのところ帝が好きなのかなとかさ、思う訳よ。私だったら、さすがにここまでいじめられるのは嫌だなあ」

「う~ん、なるほど。でも、どうなのかなあ。桐壷更衣の気持ちは分かんないけど、でも私達の立場としては、帝に嫌だとは言えないでしょ。てか、嫌だったら今ごろ出家してるんじゃないのかなあ。あ、でも帝がそれをお許しになるかどうかは分かんないけど」

「そうなのよねえ~。私達、帝は帝ってだけで帝だもんね。性格がどうとかあんまり考えてないわよねえ。でもさ、さすがに桐壷更衣を見てたら帝って性格どうなんだろうとかちょっと思うわね。桐壷更衣の肩を持つわけじゃないけど、帝はもうちょっとやりかたがあるんじゃないかって、思わない? 桐壷更衣の立場が帝の振る舞いで悪くなってるの、わかってらっしゃるのかなあ~?だって、誰も帝を悪く言えないんだもん、みんなあの更衣に批判は向かう訳じゃない?ねえ?」

「そこよね。それはちょっと思わなくもないわね。その挙句が呪詛の対象になったりするんじゃ、ちょっと辛すぎるわよね。ねえねえ、でもそれでさ、もし、もしもよ、その誰かの呪詛の効果があってさ、あの更衣が居なくなったりするようなことになったらさ、私たちにも帝に見てもらえるチャンスはあると思う?」

「いやぁ~、どうだろう?う~ん、おそらくは、ないわね」

「ない、かあ…」

「ないわよ。私たちと桐壷更衣はタイプが違うもん。仮にもしそうなったとしても、あの更衣の代わりにいじめられるだけよ」

「うわ、それは嫌すぎ!」

「しかも、おそらくは、あの更衣の代わりとしてしか愛してもらえないんじゃないかなあ」

「え、もうそれ最悪!!」

「そうよ。だからもう、帝は弘徽殿女御様を大事にしてくだされはそれでいいのよ」

「そこか~!!」

「そうなのよ。それがこの一件の落としどころなのよ、ホントにさ」

「でもそれは、なかなか難しい話だわねえ…。しかしちゃんと、後涼殿の先輩にフォロー入ってるのかなあ~?」

「上に立つ者としては、そこらへん、大事なんだけどなあ…。ヘタしたら、こっちにしわよせが来そうで嫌なのよねえ~」

「私、しばらくはあの先輩と会わないようにするわ」

「私も。だけどこれでもう、夜に息をひそめて扉を閉めたりとかしなくていいのよね?においも気にせずぐっすり眠れるのよね」

「ふふ。多分ね。実はちょっとそこは助かったって思ってるんだ~」

「うんうん、それは有難いわよね」

「先輩にはお気の毒だけどね!!」