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桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その三十ニ③

32 弘徽殿の父娘–3

 

ぐぬぬ…!!とわしが怒りに身もだえているのを見て、女御さんは畳みかけるように言う。

 

「それで、この後どうなさるおつもりですの?これだけコケにされて、右大臣家だけならまだしも、東宮までコケにされた形になっておりましてよ」

 

「そこや」

女御さんの声を聞いて、わしはスッと冷静になる。せやせや、この話には先があんねん。せやからわしは、今まで素直に怒り狂えへんかったんや。

「何かお考えが?」

「それがな…左大臣家から、長男をうちの四の君にどうかという話があった」

「四の君?源氏の君にと考えていた…え、長男?」

「せや。左大臣家の嫡男を差し出すさかい、この件は丸くおさめてくれっちゅう話や」

「嫡男…たしか、この先『頭中将』と呼ばれることになる、優秀な若者ですわよね。それで、どうなさるおつもりですの?」

「断る理由がないねんなあ。嫡男差し出された日にはなあ」

「そうですわね…」

女御さんも、急に神妙な顔つきになった。

「東宮后の方はどうしてくれんねん、とは思うけどな」

「そう。でもこちらも、父の帝が進めた話、のむしかないのですわよね…」

 

沈黙が流れた。なんやろこの、くそ面白くもない展開は。

 

「ま、まあその、な!体制には影響なしや!!な!東宮の后には、われらの傘下からいい姫さん、選ぼうやないか、な?」

 

わしは無理に明るく言って「ま、そういうわけや、ほな」と言って宮中を退出してきた。

なんやろ、この敗北感。気に入らんなあ。

 

左大臣家の嫡男もろて。東宮后も好きな姫選んで。それでええやないか。何も変わらん。ええことだらけや!と自分に言い聞かせている自分が嫌やった。なんで、言い聞かせなあかんねん。

 

牛車は自宅に向けて、都大路をのろのろ進む。それにしても牛っちゅうのは、なんでこうも進むん遅いんやろな。イライラする。いっそ自分で歩いたろか。いやそれも、この身分ではままならんか。ああ…ままならんことばっかりや。わし、右大臣やのにおかしいよなあ。