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桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その三十三

33 弘徽殿女御の悲しみ

 

ほな、な、と言って父が部屋を出て行った。わたくしは一人その場で立ち尽くす。なんなのだろう?今の話は一体…?

 

腹の底に重く沈んだ、黒いものの正体がなんなのか、わたくしは庭を眺めながら凝視する。

 

わたくしは、左大臣家とも、源氏の君とも、仲良くなりたかった。帝には嫌われたかもしれないけれど、その息子のことは憎からず思っていた。立場上も堂々とかわいがってやりたかった。

 

左大臣家とも、敵対せずに仲良くやりたかった。みんなで家族になって、今と、次の帝を支えていきたかった。

 

わたくしは、この宮中で暮らすみんなの生活を楽しいものにしたかった。ここ、雲の上の生活を、美しいものにしたかった。それなのに。

どうやらそれは叶わぬものらしい。

左大臣家は、我々と対決姿勢をとった。そしてその陣営に、源氏の君を引き入れた。

 

ああ。これでわたくしは、どうあっても源氏の君を敵対視しなくてはならなくなった。みごとな敵役に仕立て上げられてしまったというわけか。

 

わたくしは、努力したはず。なんとか皆で家族になろうとあれこれ手を尽くしたはず。なのになぜ、皆はわれら右大臣家をそんなに嫌うのだろう?我々が一体、何をしたというのだ。

 

ああ。こうまで鮮やかに対立姿勢をとられたからには、わたくしもそれを無視するわけにはいくまい。わたくしは弘徽殿女御。東宮の母として、右大臣家の娘として、東宮と実家を守り抜かねばならぬ。

 

ああ。あの美しく賢い源氏の君は、わたくしに歯向かってくるのだろうか。こちらは何もせぬものを、なぜそのように敵視せねばならぬ。できれば助けになりたいと思っているものを、何も出来ぬというだけで辛いというに、もし歯向かってこられたならば、こちらも対処せねばならぬではないか。源氏の君ほどの立場であったなら、こちらも本気で対応せねばならぬ。

 

ああ、わたくしは悪役に配せられてしまった。この長大な物語の中で、こののち千年も生き続ける物語の中で。わたくしは、弘徽殿女御の名は、悪役の、敵役の、怖ろしい女の代名詞として後世まで生き続けるのであろう。

 

なんということ。わたくしが、一体何をしたというのだろう。ただ、己の役割を果たそうと尽力したまでのことだというに。

 

ああ。ならばこの先も、配された役割を生き切らねばならぬというか。そうか、わたくしはそのような役回りなのだな。

 

わたくしは弘徽殿女御。一の后。意に染まぬとはいえ、与えられた役割は果たさなければなるまい。どうせ役割を果たすなら、いっそ鮮やかに、極上の敵役を演じてみせるとしようか。それが、わたくしに与えられた悲しい使命だというのならば…。