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桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その三十六③

 

36 左大臣の長い一日–-3

 

 

「幼い源氏の初めての元結いの時には、これからそなたの娘との末永い幸せを約束するという気持ちをこめて結んだのか?」

ということや。わしはこの、帝の発言にはっとした訳ですな。ここは元服の儀式で役目を果たしたわしに、型通りの褒美を賜る場やと思てた。実際、その褒美の品も型通りの衣装一式やった。でもここで、帝はいきなり、プライベートなこと持ち出さはったんや。いやちょっと、びっくりしたわ。それも、東宮でなしに光源氏を選んだわしを応援する内容ですからな。そらはっとしますわ。総理大臣の定例記者会見で、いきなり総理が「こないだのあの話、どうなの?」とか記者にこそっと言うたらびっくりしますやろ?このびっくりはそんな感じのびっくりですわ。まあでも、わしもおどろいてばっかりもおられん。ちゃんと

 

「結びつる心も深き元結ひに 濃き紫の色し褪せずは」

(元結いにこちらの深い心は結びつけました。その濃い紫色が褪せることがないとよいのですが)

 

とお返ししましたけどな。

それから、東庭に降りて感謝の舞を舞いましたんや。舞いながら、我ながらなんで「濃い紫の色が褪せなければいいけど」とか詠んだのやろうと思いましたな。濃き紫、光源氏の気持ちがさめなければいいけどね、て。ちょっとこの場では不吉いうたら不吉ではありますやろ?

 

せやけど、この長い物語の先を読んでもろたら分かると思いますけど、まあうちの娘と源氏の君は基本、不仲やった。それが証拠に二人の間にはこの時代のラブレター、和歌のやり取りが全然ない。見てみ?源氏の君、あっちこっちの女のとこでめっちゃ和歌、読み散らかしてはるやろ?けど、うちの娘にはないねん。

 

やっぱなあ、この結婚は親同士で決めたことやから。せやしこの時のこのやり取りが、本人らの代理のラブレターみたいになってしもた。その、ちょびっとの不安が「濃き紫に」に出てしもたんやろなあ、って、後になって思うんですなあ。とはいえ、わしはこれからも、二人がほんまに仲ようなるように、頑張るんですけど。

 

舞を終えたわしは、帝からさらに左馬寮の馬、蔵人所の鷹を褒美として賜り、周りにおった親王方や上達部たちも、それぞれの位に合わせて褒美の品を賜っとった。

 

さあ、もうじき宴が終わります。夜が更けて、いよいよわしは源氏の君を自宅にお迎えする段取りになっております。

 わしは、これ以上ないくらいに礼を尽くして源氏の君をお迎えするつもりです。左大臣家としては、ここからが今日のメインイベントみたいなもんですからな。濃き紫が、いつまでも濃くあり続けるように、という願いをこめて、わしは頑張ります。いやはや、今日はほんまに長い一日ですな。