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ドタバタ駅伝観戦記

今年も大文字駅伝が開催された。

大文字駅伝というのは、京都市内の小学生の駅伝大会である。小学生の駅伝大会ではあるが、公道を交通規制して白バイ先導で走り、地元テレビ局がゴールデンタイムに二時間番組を放送する、という本気の大会である。
この大会に、娘が去年出場した。

「大文字駅伝が終わった」

http://blog.kyo-desk.biz/family/331/

あれから一年。今年は心安らかに応援できるな、と当日を楽しみにしていた。

娘は去年自分が走った区間を応援に行くと張り切っている。

 

当日、交通規制がかかる前の早い時間から、娘は出かけて行った。駅伝が始める少し前から、私のスマホには、沿道にいる保護者がレース状況を共有する「実況グループライン」に情報が入りはじめる。

 

一区、準備運動始めました!

雪が降り始めています!!

 

などなど。私は情報の入らない娘のために、適宜投稿を転送してやることにする。さあ、いよいよ始まるな、と思うと、急に落ち着かなくなってきた。私には用事があって出かける用意をしなくてはいけないのだが、あまり手につかない。

「明日の駅伝大会、応援に行く?」

というラインが入ったのはその時だ。え?明日?大文字はもうすぐはじまるけど?と思いながらよく見ると、送信者は娘が所属する中学の陸上部のママ友だった。

「いや、行かな~い。寒いし遠いし」

即レスである。そういえば明日開催される中学の駅伝大会で、娘は一年生ながら選手に選ばれたと言っていた。会場は嵐山のグラウンドで、うちから距離的にはそう遠くはないものの、交通機関がないので非常に行きにくいところであった。雪が降る日に一時間近く時間をかけて行って、見るのは一瞬だ。家で帰りを待つ方がいい。

 

一区、スタートしました!
集団の中にいて順位は分かりません!頑張れ~!!

 

ついに大文字駅伝がスタートしたらしく、続々とラインが入ってくる。私は読みながら、主に順位、タイム、現在位置に関する情報を娘に転送する。

ああ、落ち着かない。出かけるために着替えなくてはいけないのに、ラインの転送で忙しい。一区を過ぎ二区。大体一分間に6個から10個のラインが入ってくる。いかん、もう私もいい加減に出かけなくては!!

私はラインの合間になんとか身支度を終え、夫の運転する車に乗って出かけた。車内でももちろん、大文字駅伝とラインの事で頭がいっぱいだ。

8区、スタートしました!

頑張れ!

最後まであきらめずに!!

 

レースも後半になると、大体の順位が見えてくる。そしてラインの内容も情報というよりは励ましや声援が増えてくる。この段階で、私はやっと落ち着いてきた。後は、ゴール地点で娘がチームのみんなと合流できるかどうかだけだ。

ゴール地点の岡崎公園で、みんながどこに集合しているのかを娘に知らせるラインを送った後、私は「はああ~」と大きなため息をついて夫に言った。

「いやあ、もう、なんだろうね!自分の子供も出てないのにさ、こんなに興奮しちゃってさ!もしこれで自分の子が…って、え」頭の中で「カチッ」と音がした。なんか引っ掛かったぞ。もしこれで自分の子が出たらどれだけ興奮するだろうね、って言おうと思ったんだけど、明日、うちの子駅伝大会出るんじゃなかったっけ?!

「それなら見に行けよ、っていう話だよね~?!」

夫が「なになに?どういう事?」と笑いながら言った。私の話の飛躍はいつもの事なので夫は楽しげだ。私はささっと件の筋を説明すると「ちょっと、ラインするわ」と言ってスマホを取り出した。送信先はさっきのママ友。

「やっぱ明日応援しに行くわ。どうやって行く?」

 

翌朝、休みの日なのにいつもより早起きして、万全の防寒対策を施した上で、私はみぞれの降る中、ママ友と娘の応援に出かけた。

「あれ?もう走ってる?練習?」

競技場を見下ろす土手に立つと、そこには沢山の人がいて、大声援がこだましていた。

「う~ん、そのはず。まだスタート時間じゃないよね」

時計を見ると9時58分。女子の駅伝スタートは10時15分。娘は第一走者だから絶対遅れてはいけないと思っていたのだけど、それにはどうにか間に合っている。これはきっとまだ練習なのだろう。

「それにしても、みんな応援が本気モードすぎるよね」

「走ってる子も、ちゃんとたすき掛けて走ってるしなんかガチすぎ…あ、うちの中学の子!」

おお、ほんとだ。うちの中学のユニフォームを着た女の子の後ろ姿が見えた。なんとなく娘のような気がしなくもないが、気のせいか?まあとにかく、我が子を探そう、という話になり、娘から聞いていた荷物置き場に向かう。

「あ、あそこに娘さんいるよ。今チームTシャツ着てる」

見ると娘が確かにユニフォームの上に服を羽織っていた。もう走り終わったのか?まさかね。近づいて行ってちょん、と腕を触ると冷たかった。よかった、多分まだ走ってない。

「あ、お母さん!私ね、今もう走り終わったよ!」

無常な通達。

「雪でね、スケジュールが30分繰り上がったの!そうなったらきっとお母さんは間に合わないだろうなあと思ったけど、まあしょうがないよね」

無情な通達その2。

娘は明るく笑った。3キロも走ったとは思えない平静さと元気さであった。となると、来た時に走ってる後ろ姿をみたあの女の子が、やっぱり娘であったか…。一瞬。マジ一瞬だ。一時間かけてきて一瞬。

それからママ友の娘さんが第三走者だったので、そこからはチームの応援をした。コースを3週。

マラソンや駅伝を沿道で観戦すると、目の前をサッと走り抜けるのが見えるだけで、レース展開はまったく分からない。今回は周回コースなのでその辺は楽しめるかと思っていたが、それぞれがてんでに周回しているので、誰が一位なのか、何走者目なのかも分からず、ただ目の前の我が子に声援を送るしかない。それでも楽しめるのではあるが、レース展開がよく分からないという点では沿道とさしてかわらない。

タイムも順位も良く分からないまま、走り終わったことが分かった時点で、私たちは会場を後にした。そしてまた、一時間かけて自宅に帰った。

我が子が出るレースはどれだけ興奮するだろうと思っていたけれど、興奮という点では大文字のほうが何倍も上だった。これは一体、どういう事なのだろう…??そして結局、私は何をしに嵐山まで行ったのだろう…?

午後から用事で大阪は京橋まで行った。所要時間は1時間15分だった。市内の競技場も大阪も、行く時間はさして変わらないことに、私はある種の挫折感さえ感じていた。

陸上競技の楽しみ方、今一つ謎である。