先日、ネットで買い物をした。
仕事から帰ると不在票が入っていたので、再配達を自動受付で依頼する。
それから10分ほど外出した間に、電話にドライバーさんからの着信履歴があったので、もしや近くにいるのでは、と思って直接電話したのが大きな大間違いだった。
住所と名前を言ってください、と言われて、うっかり電話番号を口にした瞬間
「じゅーしょとなーまーえーを いってくださああい!!」
とゆっくりとした大声で言われたのだ。まるで恫喝。びっくりした。本当にびっくりした。これまでの人生のすべての接客で、受けたのことのない対応だった。
それから一通りのやり取りが済むまで、相手はすべてこんな感じで、少しでも私の答えが気に入らないと上げ足をとる発言をし、そのくせ私がきちんと答えると途中で「あ~も~それね~」などと言って遮るのだった。
電話を切ると、私の怒り心頭な様子を見ていた娘がすぐにその配送業者について調べてくれた。アルファベット3文字の会社だった。
「お母さん、めちゃくちゃ評判悪いよ!!」
パソコンの画面を指さして、娘は言った。なんて書いてある?と聞くと、
対応はいつも最悪。
指定時間内に届いたらラッキー。
クレームをつけても意味がない、嘘をつくから。
クレームをつけるなら配送業者が契約している会社(アマ〇ンなど)にするべし。
ということだった。マジか…。でもね、と娘は続ける。それも仕方ないんだって、と。
つまり、彼らは安い賃金で雇われていて、その安い賃金ではいい人は集まらないので、質のいいサービスは期待できない、というのがその理由だった。
「職業に貴賤なし」という言葉がある。昔から、そんなこと言ったってやっぱり医者や弁護士は偉いんじゃないの、と思っていた。でもある時、夫が「日本には本当に職業に貴賤がないから凄いんだよ」と言ったことがあった。
日本人は、社長でも新人でも雑巾持って掃除するでしょ?でも例えばインド人はカーストあるから「掃除は自分の仕事じゃない」って言ってやらないんだよ。マクドナルドのお姉さんって、別に普通の店員さんだよね?でも海外じゃ露骨に「勉強しないとマクドナルドで働くしかなくなるぞ」とか言われるんだよ。なんかこう、もっと、職業と身分が厳然としてるって言うか。
それを聞いた時、あんまり話の内容がピンと来なくて「ふ~ん」と言ったきりだったが、今回この時の夫の話が実感として理解できた。この配送業者はアメリカのマクドナルドなのだ。やばい、欧米か!
あと数時間で、あの人物がうちに来るのかと思うと、さっきまでの怒りは消え失せ、代わりに恐怖が襲ってきた。個人情報は全部ばれているのである。家の場所さえも。こわい。配送業者に恐怖を覚えたのはこれが初めてだった。いつもの飛脚のオジサンは愛想がよくて、あれが普通だと思っていた自分を張り倒してやりたい気分になった。今度からはもっと積極的に感謝をしよう、などと場違いな反省をする。
ともかく、指定時間通りに来るとは限らない。もしかしたら荷物だって破損しているかもしれない。ああ、せっかく家族で楽しもうと思って買った物なのに、使うたびにこの嫌な件を思い出したりするんだろうか、と思うと気が重かった。荷物が来てほしいような、来てほしくないような、複雑な思いだった。
幸いにも、荷物は全くきれいな状態で、指定時間内に届いた。私は手がふさがっていて出られなかったが、対応した娘(この事態もホントは避けたかった)によると、真面目そうでおとなしそうな人だったよ。多分別人、とのことだった。
一件落着で何よりだった。が、あの配送業者を産んでいるのは私達消費者なのだと思った。年会費は払っているものの、この買い物については配送料は無料だった。しかもお急ぎ便になっていた。その安さのしわ寄せがあの配送業者にいっているのかもしれない。なぜ彼らは安く使われているのか、そこのところは考える必要があると思う。
大した対価を払ってないのにサービスを期待するな、という意見がある。普段ならその通りだと思うのだが、さすがに今回の件については怖かった。多少の対価を払ってもいいので、たとえばこちらが配送業者を指定できるシステム(今回の業者かそれ以外か、でもいいので)があったりするとありがたいなと思う。
そうして私は、金輪際ドライバーに直接電話をするのはやめることにする。前々から、相手に負担もかかるし、結局届く時間も良く分からないことが多いので、自動受付を使うようにしていたのだが、もう本当に絶対に電話はしないと決めた。さらにこれからは、うちに来てくれるいつものドライバーさん達のありがたみを肝に銘じ、もっと感謝の気持ちを伝えることにする。ありがとう!ありがとう!