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桐壷をめぐる人々 ~超訳源氏物語「桐壷」~ その十五

⑮弘徽殿女御

 

ああ…なんて静かな秋なのかしら。そして、なんて湿っぽい秋なのかしら。

 

夏にあの更衣が死んでからというもの、帝がなさることといえば更衣への弔いばかり。もう、ただただ悲しみにくれてメソメソと泣くばかりで、湿っぽいといったらありませんわ。

あの更衣がいなくなりさえすれば、宮中は平穏を取り戻すかと思っておりましたのに、帝はあんなご様子で、まるでもぬけの殻のよう。夜のお相手も寝所に呼ばず、お一人でお休みになるという始末で、ほとほとみんな困っているのです。

 

腹立たしいのは、わたくしの一宮と会う度に、あの更衣の息子を思い出して、恋しく思っていることですわね!その証拠に、その後必ず、あの更衣の実家に使いを出して様子を聞いてくるように言いつけていらっしゃいますわ。

 

「ああ!死んだ後までも、周りの者を嫌な気分にさせる人だこと!なんて素晴らしいご寵愛ぶりなのかしら!!」

「女御さま。お声が少々…」

「でも本当のことでしょう?なにがいけないというの?」

 

ああ、うっかり馴染みの女房、わたくし付きの召使いですわね、を睨んでしまいましたわ。本当に、損な役回りだわ。私は帝に宮中の安定をはかって頂きたいだけなのです。それなのに、帝は生きているあまたの者を差し置いて、この世ならぬあの女人一人だけをご覧になっている。わたくしは帝の一の后としての役割を全うせねばならないのです。なにも、このわたくしを寵愛せよと言っている訳ではございませんのよ?宮中全体の事を考えているというのにあの帝ときたら…。

 

ああ、でもそうね、わたくしがこういう事を言うから、紫式部先生に「我が強い」「手厳しい」などと書かれて、悪役のイメージがのちの世まで伝わってしまうのですわね。

そう、わたくしは弘徽殿女御。この口からでる言葉には大きな力があることを、もっと肝に銘じなくては。

 

とにかくもう、あの更衣はいない。わたくしはその後の宮中を、よりよい物にする役割があるのです。