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道場六三郎×勝間和代=簡単でおいしい

十代の終わり、親元を離れておっかなびっくりで自炊を始めた私たち学生にとって、テレビ番組「料理の鉄人」で無敗を誇る道場六三郎と、その「料理の鉄人」で中華の鉄人を破った家庭料理の小林カツ代は神だった。

「これ、カツ代さんレシピの肉じゃがだから!」

「道場さんのマネしてみた!」

と言いながら作った料理を、よくみんなで一緒に食べたものだ。そしてそれらは、いつも間違いなく美味しかったし、万一まずかったとしても、誰も「マズイ」とは言えない圧があった。

 

そのころから、ずっと作り続けているレシピがある。道場さんの「手羽先と大根の煮物」。

 

大きく斜めに切った大根(巨大なささがきと思ってください)と、皮目から焼いて焦げ目をつけた手羽先をサッと炒め、そこに出汁と醤油、みりんを6:1:1で加え、水分がなくなるまで煮る。以上。

 

というもので、簡単に出来る上にジューシーな大根とボリュームのある手羽先が食べごたえ十分な、冬の献立である。

 

ずっとこのレシピ、作りやすい量の出汁300cc、しょうゆとみりんが各50ccというのでやっていたのだが、私はそのうち勝間和代さんの「ロジカルクッキング」というものを知ってしまった。

 

「塩分量が材料の重さの0.6%」

 

これが金科玉条である。あとは弱火でとか切り方は、とか色々あるけど、とりあえずこの塩分量だけ死守すれば何とかなる。それで美味しいものが出来る。

 

そうか、と、いうことは、「手羽先と大根の煮物」も、重さを量って醤油の量を出したら、後は同量のみりんと6倍の出汁をいれればいいのか!

 

私はそう思って今回は新バージョンで作ることにした。

いつも通りに大根を切り、肉と一緒に炒めて、だしはもう、鶏肉から出るだろうから水だけでよしとして…。

 

ジュージューいうフライパンに、いざ水をくわえようとした私の手が、ふと止まった。

「い、いやあ~」

私はうめいた。その瞬間、数日前に見た、勝間さんのYoutube動画の内容を思い出したのだ。

料理に水を入れると、まずくなる。

美味しくない、じゃなくて、より積極的に「まずくなる」。わろし、じゃなくて、あし。悪ろし、じゃなくて、悪し。

まずいものを、わざわざ作るのもなあ~。でも、これまでも普通に美味しかったから、まずいってことはないとは、思う、けど…。

 

次の瞬間、私はコンロの火を消し、フライパンの中身をホットクックの内鍋にザザッとあけた。そこに醤油とみりんを入れて、「鶏肉と大根の煮物」モードのボタンをぶちっと押す。水は一滴も入れなかったが、これまでの経験上、焦げ付いたりすることなく、十分な煮汁が出現することは想像できる。これにて調理終了。

 

かくして、私の「手羽先と大根の煮物」は出来上がった。ホットクックで作ったので、ボタンを押した後は放置してお茶など飲んでいた。

 

仕上がった煮物は、これまで以上にジューシーだったし、肉はプリプリしていた。雑味のない美味しさだった。出汁がなくても物足りなさは全くないし、水分量も申し分ない。ただ、ちょっと甘ったるい気がしたので、みりんはナシか、あっても半分でいいかもしれない。

 

道場さんの切り方と、勝間さんのロジックと、ホットクックのテクノロジー。私のこれまでの学びと経験が色々と結実した一品。私は一人満たされた思いで、大根とこれまでの年月をかみしめた。