家のそばの公園に、ポケモンGOのポケストップが3か所もあるので、娘にせがまれて出かけた。
娘が幼稚園に入るまでは、毎日のように通った公園である。
娘が遊ぶのを、鉄棒に寄り掛かって眺めていた。
そしてふと、この鉄棒で昔、遊んだことがあったなあと思い出した。
まだ娘が一歳にもならない頃のことである。
休日の午後に、この公園に家族そろって出かけた。公園の隣のグラウンドでは少年野球の試合をやっていて、公園との境にあるベンチは応援のママたちで鈴なりであった。
夫が、何気なく娘の乗ったベビーカーを、鉄棒のそばに押してきた。
その瞬間、私はひらめいたのだ。娘を喜ばせる方法を。
娘はこのころ「いないいないばあ」が大好きだった。
なので、娘のベビーカーを鉄棒の下に据えて、私が鉄棒で前回りをする要領で、上から「いないいないばぁ!」とやれば、娘は一体どれだけ喜ぶだろう?! そんな風に考えたのだった。いつもと違うバージョンのいないいないばあ! 素晴らしいじゃないか! キラ~ン。
何しろ私は子供の頃、鉄棒は体育の時間に先生に指名されて、みんなの前で見本を見せるほど上手かったのだ。
かなりブランクはあるが、前まわりくらいは朝飯前である。
思いついたらさっそく行動。
まず、娘を鉄棒の下の適当な場所に据える。
後は私が前回りをすればOKである。よし。
季節は冬、驚くほど鉄棒は冷たかったが、娘のために我慢だと言い聞かせて地を蹴った。
うっ…!! お、重い。自分が、重い。
全体重を、腕立て伏せも出来ないこの腕だけで支えねばならないことに、この時初めて気が付いた。まずい。これは一刻も早く逆さにならなくては…!
しかし、いざその動作に入ろうとすると、ジーンズのボタンがお腹にめり込んで痛い。そこでそのへんの位置を調整すると、今度は鉄棒の位置がちょうど帝王切開の傷口と重なって痛いのである。
ううむ…どこだ、どこなら大丈夫なんだ?!
そうこうしているうちに腕がプルプルしてきた。つ、辛い…早くしたい。それにしても、鉄棒で前まわりをするだけなのに、どうしてこんなに色々調整が必要なのだろう? これが大人になったという事か? ああ私、今きっと、顔が赤いような気がする…。
なんとか都合をつけて、満を持して回転! あっ!
ちょっと~!! よそ見しないで~っ!!
「ねえ、ちょっと! こっち向いてってばぁ~っ!」
私が髪を文字通り逆立て、頭に血を上らせながら必死にこっちを向かせようと声をかけても、娘はあらぬ方を向いて、優雅に指など吸っておられる。端から見たら、全く馬鹿げた光景だろう。その証拠に、少年野球のママが何人かこっちを見ている。いや、見て欲しいのはあなた達じゃないから。見なくていいから。もう、見世物じゃないんだってば!!
そして頼みの夫はただ、傍観。こらーっ!! 夫ー!!
諦めて、鉄棒から離れた。
腕とお腹がジーンとする。頭から血の気が引いて行くのが分かる。
「帰るよ!」
私が声をかけると、夫は急変した私の機嫌を察知したらしく、不可思議な顔をして、ベビーカーを押してついてきた。
ここで「どうしたの?」と聞かない夫の賢明さが小憎らしかった。
もう、二度と鉄棒はやらない。