poolgoods

ぶれるな、私。

夕飯の支度をしていたら、ひどい夕立が降ってきた。
娘が学校から帰ってくる時間だが、まあ、どこかで雨宿りしているだろう。
そう思いながら、雨に白く煙る景色を眺めていた。

ただいま~

玄関先で娘の声がしたので、驚いてタオルを手に走る。
玄関には、頭から水泳の授業で使ったバスタオルをかぶった娘が立っていた。足元には小さな水たまりが出来ている。

慌てていろんなところを拭いてやりながら
「もうてっきり、雨宿りして帰って来ると思ってたからびっくりしたよ~」
というと
「だって、いつ止むか分かんないし。もうそれなら帰ってしまった方がいいや、って思って帰って来た」

そのままシャワー浴びなさい、というと、荷物を置いて髪を拭きながら、はあい、と返事をした娘。
「そういえばさ、途中でMちゃんのママが迎えに来たよ」
Mちゃんというのは近所の下級生で、たまたま一緒に帰って来ていたらしい。
「でもMちゃんは折り畳み傘持ってたからさ、傘持って来てもらっても余ってたんだよね。それで、ちょっと私が傘に入れてもらったんだ~」

ああそう、良かったね~、と、一応は言ったものの、私の内心に雨雲が湧いた。
もやもや。
「お母さんも、迎えに行けばよかったかな、ごめんね」
「いや別に。それは甘やかされすぎでしょ。お風呂入るね」
娘は意にも介さない風でさっさとお風呂場に行ってしまったが、残された私は、本当にそうだろうか、と思わずにはいられない。

雨が降ると、いつもお母さんが下駄箱に傘を届けていてくれて、それがとても嬉しかったので、自分もそんな母親になりたい。

そんなことを小林真央さんが言っていたのをふと思い出す。
にわか雨が降って、子どもを迎えに行く母親と、ただ窓の外を見る母親と、どちらが「良い母親像」かは言うまでもない。
一緒にいた友達のママだけが迎えに来た娘は、その時一体何を思ったのだろう…??

そんな風に思うのなら、迎えに行けばよかったじゃないか、と自分に問う。
いや、実は一瞬、それは考えたのだ。でも、そうしないことを私が選んだんだよ、と自分で答える。

雨宿りするだろうと思ったから。
そうでなくても、自分で考えて、工夫して、どうにかするだろう、してほしいと思ったから。
私が迎えに行くことは、その工夫のチャンスを失くすことだし、多分私は、傘を持って雨の中を出て行った場合、そんな自分を「いい母親だな私」って思いながら歩くのだろう。そんな自分は何か嫌だ。

いやもちろん、迎えに行くのが悪いと言っているのではない。ただ純粋に「迎えに行こう」と思って行くことは親心の発露であるし、素晴らしい行動であることには違いないのである。

が、私が色々考えて、考えすぎて(?)そうはしなかったというだけの話だ。
ならば、勝手にモヤモヤするのはもうやめよう、と思った。

事実、娘はバスタオルをかぶって雨の中を歩くという選択と工夫をした。
そう、あの二人羽織みたいな娘の姿を玄関先で見た時、内心ニヤッとしたではないか。
よくやった、とそう思ったではないか?

私が良い母親だと世間に思われること、母が雨の中、迎えに来てくれて嬉しかったという温かい記憶、そういう物を得るか、あるいは母は来ないが自分で工夫して、濡れながら帰って、自分で考えて動けたという自信を娘が得るか?

やはり後者を取るな、と私は思った。
私が世間に良く思われることなんか、どうでもいいや。

…とは思いながらも、誰かにこの話を聞いてほしくてフェイスブックに投稿してみた。
すると、日ごろ私が敬愛する先輩ママたちが軒並み共感してくれて、非常に心強かった。
自分が子どもの頃は雨に濡れるのが好きだった、って言ってくれた人もいて、うれしかったなあ。

「いいじゃん、子どもらしくて」
そんな、シンプルながら核心をついたメッセージがありがたくて。そう、娘のそんな姿が見たかったのかもしれない。
そして
「工夫が出来る娘さんを確認できたわけですよね」と言ってくれた人も。
今後娘が、何かの選択をする際、この確認が出来たと言うことは大きな手掛かりになる、と。

確かにそうだ。これからの娘は成長につれて、挑戦の連続になるだろう。その時に、今回の事は「きっとできる。自分で何とかするはず」という、信頼のよりどころとなるだろう。きっと、ハラハラしながらも手出しをせずに見守ることができると思う。それは娘を信頼すると同時に、自分をも信頼していることになる。

子供が自信をつけることは、生きる上でとても大事なことだ。言ってしまえばとても陳腐だけど。
自分の世間体と引き換えに、そのチャンスをつぶすことがなくて、本当に良かった。

ぶれるな、私。世間的な「いい母親像」なんて、娘が自信をつけることのメリットの前には、露ほどの価値もないことだ。
ぶれるな、私。何のために子育てしているのかを忘れるな。いい母親になる事ではないはずだ。
ぶれるな、私。世間体なんてぶっ飛ばせ。私も娘にも、自信を!

そして次は、バスタオルを被った娘を、面と向かって褒めてやろう。自信を持って、褒めてやろう!!