大阪。
心斎橋には、10年以上前に来たきりだ。久しぶりのこの街は、建物も一つ一つ大きくて、人も多い。若い人が多い。真夏の昼下がりに道で配っていたのは、冷え冷えのウィルキンソンのペットボトル丸ごと1本。試飲といえば小さな紙コップで配るのが普通の街に住む私は、これはどこかのボランティアが暑さ対策のために配っているのだと思い、それが販促なのだとはすぐにわからなかった。大阪は大きくて若くて勢いがあって新しい。
素敵な人たちと、素敵な時間を過ごした後、帰路につく。梅田まで地下鉄で。それから阪急で家まで。
心斎橋。電車はほとんど満員で滑り込んでくる。乗る人より降りる人が多い。これから遊びに繰り出すのだろう。さすが心斎橋。
本町。人が多い。いっぱい降りていっぱい乗ってくる。
淀屋橋。京阪乗り換えで人の入れ替わりが大きい。やっぱり人は多い。
そして梅田。大量の人の移動。私もその流れに乗る。血管の中の赤血球にでもなった気分だ。
適当に阪急目指して歩く。どこだかわからないが、不安は全くなく、何とかなるだろうという気持ち。なぜだかホーム感。
突如目の前に、阪急百貨店の食品売り場が出現した。やっぱり良く分かってないくせに「ああ、ここか」と思う。この辺りから「阪急電車」の表示が建物内に現れる。
阪急三番街の前に出た。このまままっすぐ行って、阪急電車のホームに続く長い上りエスカレーターに乗ればいい。
真夏の土曜の夕方。人は多いし気温も高い。間違いなく35度は超えているだろう。私の街は今日も38度超だ。
いつもの私なら、人混みと暑さで気持ちがぐったりしているはずだった。先週末、私の街の繁華街に買い物に出かけた時はそうだった。
なのになぜか今、私は「楽しい」とつぶやいていた。私の街より圧倒的に大きな街、梅田で。
楽しい。
街は大きくてキラキラしていてエネルギーに満ちている。
人は多いが、人と人の間は快適な距離が保たれている。天井も高い。視線が遠くまでとばせる。物理的に、街が大きいのだなと思う。
楽しい。
人々のざわめきがこの空間に、さざ波のように響いている。自然の、生のBGM。
楽しい。なんて楽しい。みんな生きている。
自然と歩幅が大きくなっているのが分かる。視線と口角が、上を向いているのが分かる。
楽しい。ワクワクする。大阪は、開いている。
動く歩道を抜け、阪急電車のホームに向かう、エスカレーターに乗る。ここからは慣れた道。上りきって改札を通り、視線を右に向けると、私の街に行く特急列車が待っている。お迎え、ご苦労。
大阪は、楽しい。
何より、この大都会のパワーにワクワクできる自分が嬉しい。
明日は私の誕生日だ。いわば大晦日のような今日の日が、こんなにキラキラしていたことを、ずっと忘れないでいようと思った。
特急列車はほぼ満員だった。夕日の差し込む車内の人たちを眺める。気持ちと空間が、日常に戻っていく時間。キラキラ光る、大阪の欠片を大事に握りしめ、さあ、帰って晩ごはんの準備だ。